すてて行ってしまった。わしらといっしょにいるのが、退屈になったんだ。一人ぼっちだ、この指のように、一人ぼっちになってしまった!
[父と子] p.272
作品情報
タイトル:父と子(ОТЦЫ И ДЕТИ)
作者:イワン・ツルゲーネフ(ロシア 1818-1883)
初版発行:1862年
ジャンル:小説(ロシア文学)
こんな内容だよ!
- 農奴制時代のロシアにおける、父と子の物語。
- 時代から取り残されていく親と、新しい考えを主義とする子のすれ違い。
- ニヒリストである若きバザーロフの葛藤の物語。
あらすじ
ニコライ・ペトローウィチのもとに、大学を卒業した息子のアルカージイが返ってきた。久々の再開に喜ぶニコライ。しかしニコライは大学の友人であり、徹底的なニヒリストであるバザーロフを連れてきていた。
徹底的な否定を主として、ニコライやニコライの兄パーヴェルと対立するバザーロフ。父を愛するアルカージイもまた、家族とバザーロフの間で自身の考えが揺れ動いていく。
一方バザーロフもまた、とある女性との出会いが、彼のニヒリズムを揺り動かしていく、、、。
感想:現代の日本にも通ずる親と子の物語
この物語は農奴制(農民が領主に支配されていた時代)に書かれた物語であり、私たちを取り巻く環境が今日の日本と大きく異なります。
しかしこの作品に登場する人物たちのやりとりの中に、私は現代の日本の親子関係に通じるものを感じました。
あたりまえですが親子が生きてきた時代は大きく違います。環境も異なれば、当時良しとされていたものも異なります。
しかし、親子とは難しいもので、そうした当たり前に気づくことができず、親は自分の経験した生き方や、こうであってほしいという価値観を押し付けようとしてしまうものです。
新しい時代を生きている子どもは、新しい価値観に揉まれ、自分でも何が正しいのかを考え、悩み続けながら、親の考えにどうしても納得できないことに気付いてしまいます。
本書はそうした親(特に父)と子どものやり取りが、物語を通じて緻密に書かれており、特に子供を持つ親世代の方々にぜひ一読してもらいたい作品となっております。
特に本作品に出てくるアルカージイの友人バザーロフは、自ら持つニヒリズム(物事を批判的な見地から見ること)によって、多くの人と対立していきますが、そんな彼もまた、新しく出会う人たちとの議論の中で、自身の主義が揺れ動き、葛藤していきます。
このバザーロフこそ、本書における今の世代(つまり子)を代表する存在であり、この物語のカギである人物です。この本を読まれる際は、ぜひバザーロフに注目してみてください。
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